ロバの耳
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2004/12/11(土) 本・ローマ人の物語15『パクス・ロマーナ(中)』塩野七生新潮文庫
 「帝政」の名を口にせず、しかし着実に帝政をローマに浸透させていくアウグストゥス。彼の頭にあったのは、広大な版図に平和をもたらすためのリーダーシップの確立だった。市民や元老院からの支持を背景に、アウグストゥスは綱紀粛正や軍事力の再編成などに次々と取り組む。アグリッパ、マエケナスという腹心にも恵まれ、以後200年もの間続く「パクス・ロマーナ」の枠組みが形作られていくのであった。
(文庫本折り返しより抜粋)

 オールマイティーだったカエサルに対して、自分に足りない能力を腹心たちによって補っていたアウグストゥスは、その腹心たちが次々とこの世を去るに従って、苦戦を強いられていきます。また、彼がこだわった「血」、世襲制へのこだわりも彼を悩ませることになります。果たしてカエサルが構想し、アウグストゥスが実地した帝政への着地点は、いかなるものになるのでしょうか?

 この巻で興味深く読んだのは、アウグストゥスの行った少子化対策でした。

 平和を教授し、文化が爛熟し始める帝政ローマの初期。この時代の人々も、結婚して子供を産み育てるより、別な楽しみに人生を使うようになっていきます。それによって深刻化する独身・少子傾向に歯止めをかけるため、アウグストゥスは二つの法案を成立させました。それが「ユリウス姦通罪・婚外交渉罪法」と「ユリウス正式婚姻法」です。

 「姦通罪・婚外交渉罪法」はその名の通り、正式婚姻関係以外のあらゆる性的関係を公的な犯罪と見なす法です。これは城攻めに例えるなら水だちのようなもの、と作者は規定しています。ようするに性関係は子供を作ることを主たる目的とせい、ということなのでしょう。

 それに対して「正式婚姻法」はまさに城攻め。この法の成立によって、国家ローマの中枢を担うべき人たちは、男は二十五歳から六十歳、女は二十歳から五十歳の圏内にあるかぎり、結婚していなければ独身であることの不利をたえねばならないことになりました。これは未亡人の場合でも、子がなければ一年以内に再婚しないと独身並みとされたそうです。

 また女性にだけは、独身税としてもよいと思われる、税制面での不利まで規定されました。子をもたない独身女性は、五十を越えるといかなる相続権も認められないことになったのです。また、ある一定額以上の資産をもっている者は、これを維持する権利までも失うのでした。

 さらにさらに、独身女性の場合、ある一定額以上の資産を持つ者は、五十歳以前でも、夫を見つけて結婚するまでの毎年、資産からあがる収益の一パーセントを国家に治めなければなりません。それも結婚すればすぐ免除されるのではなく、子供を三人産むまでは支払い続けなければならないのでした。

 この「正式婚姻法」の内容をここでこれ以上詳しく述べることはしませんが、要はこれによって、独身者や子をもっていない者は、社会面、税制面、キャリアの面においてハンデを負わされる事になったのです。逆に子を多くもった男女には特典が与えられたのでした。また離婚についても、それまではすこぶる自由であったのが、非常にやりにくくなるように改められています。

 作者のこれら二法についての感想を抜粋します。

「個人の人権の尊重という啓蒙主義を経てきた現代の歴史家からは不評であるはずだが、実際は反対なのだから面白い。彼らの出身国といえば先進国なので、少子対策は他人事ではないのかもしれない。私の感想ならば、このような問題は、税からの控除とか家族手当の増額程度では解決不可能なのだと、妙に感心したものである」

 つまり、人間は「あめとむち」双方がバランス良く使われないと動かない存在だということですね。

「それに税制上でも出世の上でも不利だからという理由で産んだとしても、子供というものは、生まれてみれば可愛いのだ。結婚もしなくては不利となれば、選りどりみどりという、人間性に対する不遜な態度も改める気になるかもしれない。キリスト教は、神に誓ったからという理由で離婚を禁じているいが、これも進歩主義者の言うほど悪法とは思えない。神に反するとなれば、離婚を決行する前に十倍は熟考するのではないか。考えれば、我慢してもよいところなど見つからないでもないのだから」

 手段はどうあれ、結果が良ければそれで良し、というところでしょうか。
 


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