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2004/11/21(日)
本・ローマ人の物語15『パクス・ロマーナ(前)』塩野七生 新潮文庫
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初代皇帝アウグストゥス(オクタヴィアヌス)の帝政に到るまでの長き政治物語の前半です。
彼は、かつての王政を連想させる一人の人間が権力を握ることに過剰な拒否反応を示すローマ人たちを、悪く言えばうまく騙しながら、次第に帝政の礎を築いていきます。 アウグストゥスは政治の天才でした。それは決して陰謀めいた方法をとってはいません。誰かの血を流すこともありません。全ては合法的に行われていくのです。元老院議員たちにはかつての権威を復活させてやり、あたかも共和制への回帰をするかのごとく見せます。しかし、それはすでに形骸化した権威であり、自分は一見して役に立たないような敬称や権利を手にしていきます。それらは一つ一つはなんでもないことのように思えるのですが、全てが繋がったときに全てが帝政の布石になっていくというのですから、まるで出来の良いミステリの筋立てのようです。
私が意外に思ったのは、「皇帝」という言葉に対してもっていたイメージと、アウグストゥスという人物がかなりかけ離れていることです。普通、「皇帝」というと、権力を手中に収め、えばりくさって贅沢三昧、豪邸で女性をはべらかす・・・という印象があるのではないでしょうか。私は「皇帝」というと始皇帝を初めとする中国の皇帝たちを連想していたので、このようなイメージを「皇帝」に対して定着させてしまったのだと思います。 ところが前任者のカエサルもそうですが、権力を手にしたアウグストゥスが行っていくのは、財宝集めでも女漁りでもなく、ローマを中心とした恒久平和のためのインフラ整備や対外政策なのです。
「統治とは、統治される側の人々までが納得する何かを与えないかぎり、軍事力で押さえつけようが反対者を抹殺しようが、永続させることは不可能事である」
作者の言葉ですが、カエサルにしろアウグストゥスにしろ、真の政治家とはなんと面倒臭いものかと思います。自分勝手で欲望の塊である人間たちを、見返りも期待できないままにたばねていこうとする努力。一体、何が彼らにそのような熱意をささげさせたのでしょうか。
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