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2004/10/02(土)
友人Sをもてなした食事
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程度の差こそあれ、人は他人が自分のしたことでが驚いたり、喜んだり、楽しんだりするのを見るのが好きなはずです。 ご多分に漏れず私も大好きなのですが、私の友人たちはなかなか一筋縄ではいかない者たちが多く、こちらの苦心が報われないことはしばしばです。
先日、友人のSが私の家に遊びに来て、ともに小三治の落語を聴いたり、釣りをしたことはすでにこの日記に書きました。 このSがまた芯の通ったひねくれ者。なかなか心から喜ばせたり、驚かせたりはできません。それでもなんとか遊びに来たことを後悔だけはさせまいと、必死にプランを練りました。 特に食べ物。彼の嫌いな物はコーヒー・キゥイ・酢の物とはっきりしているので、家人によくよくそれらを出さないよう指示します。 彼はなかなかしたたか者で、ずいぶん前からこの三つ(特に前の二つ)が嫌いなことを派手に宣伝してまわっていますし、新しい知り合いができると強烈にアピールするようです。実際に嫌いなのは確かなのでしょうが、そうすることで相手に親近感を持たせようという計略なのではないかと私は勘ぐっています。つまり、ドラえもんのネズミ、オバQのイヌのようなものですね。 ただ、あまりにこのアピールが強烈なために、Sは食べ物の好き嫌いが激しい人物だと思ってしまっている人が多いのではないでしょうか。ところが彼はこの三つ以外はなんでも食べる、むしろ好き嫌いのない人間なのです。私もずっと勘違いをしていました。きっと嫌いな食べ物を挙げていったら、私のほうがが多いに違いありません。 なんでも食べるSではありますが、特に好きなものがあります。それは甘味です。けれど主菜にお菓子を出すわけには(彼はきっとそれでも満足するでしょうが)いきません。 今回、予告として「新米をご馳走する」とは言っておいたのですが、おかずを何にするかではもの凄く悩みました。S本人は「新米だけでいいよ。あとは梅干しくらいで」と言っていましたが、それを真に受けるわけにはいきません。 初めは炊き込みご飯にしようかと思っていました。ほっき貝を炊き込んだこの地方名物の「ほっき飯」か、以前レシピを紹介した「はらこ飯」を考えたのです。これは地方色を出すのと同時に、Sが炊き込み系が好きだということを考えてのことでした。しかし、せっかく新米を味わってもらうのに、炊き込みにしてしまうのも惜しい気がしました。 そうなるとSが喜びそうな「ご飯の友」を考えたほうがよさそうです。彼にとってのご飯のベスト・パートナーとはなんなのだろう? 私はこれまでの彼の言動を全て頭の中で洗い直しました。季節を考えて秋刀魚の炭火焼きはどうだろう。もつの煮込みもいいかもしれない。いや、いっそのこと本当に梅干しだけにするか……。 Sのおかずの好みですが、細々としたものがたくさんテーブルを飾る華やかさよりも、一品、それもシンプルなものがどかっと出ているほうを好むタイプのようです。本当に何でもよく食べるのですが、その中でも好きなのはやはり肉、しかも濃いめの味付けで油が多く、歯ごたえがあったほうがいい。 そこまで考えて、私は母の料理の中でそれに当てはまるものがあることに気がつきました。それは「豚の角煮」です。これなら肉で、油もあって、一品どかっとしたもので、味付けが濃く、歯ごたえも楽しめます。これに辿り着いたとき、私はスフインクスに出された難問の答えを見つけたような気分でした。 はたしてSをもてなすために母に作ってもらった「豚の角煮」が彼を心から喜ばせたかどうか……は当人みぞ知るの世界なのですが、食後のデザートとして果物が出てきたとき、彼と私と母の間でこんなやりとりが交わされました。
私「母さん、いちじくあったでしょ。彼が好きだから出してあげて。キミ、いちじく好きだったよね? 前にキミの家にお邪魔したとき、カゴに山盛りのいちじくを持ってきて、これ、うまいんだ≠ニいいながら全部一人で平らげてたもんね」 S 「あれ、そうだっけ。オレ、そんなことしたっけ? あははは、全然覚えてねぇや」 母「はい、いちじく。リンゴもあるけど。○○(私の名)、リンゴ好きだったわよね?」 私「オレはリンゴはあんまり好きじゃないよ」 母「え、そう? 好きだって言ってなかった?」 私「言ってねーよ。いつもあんまり好きじゃない≠チて言ってるんだよ。オレが好きなのは桃と梨」 母「そうだった? じゃあ、リンゴとミカンだったら、どっちが好き?」 私「どっちもいまいち。酸っぱいやつならミカンかなぁ。そういえば、キミ、ミカンも好きだったよね。手が黄色くなるくらいまで食べるって言ってたもんね。以前、キミの家にお邪魔したとき、山盛りのミカンを持ってきて、それ全部一人で食べてたもんね」 S 「…………」 母「はい、どうぞ(むかれたリンゴが出てくる)」 S 「あ、どうもすみません」 私「そういえば、キミ、リンゴも好きだったよね。それも、好きなタイプのリンゴと嫌いなタイプのリンゴがあるんだよね」 S 「(笑いながら)よく、そこまで覚えてるね」
とりあえず、彼を驚かすことには成功したようです。(呆れさせたのかもしれませんが。記憶力は悪いのに、どうしてこんなことばかり覚えているのでしょう)
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