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2005/06/15(水)
星空と沈黙W 哲学者の塔
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建物の中は完全な吹き抜けになっていた。下を見ればそこが見えず、上を見ても天井も見えなければ空も見えない。おかしい。自分が今いるのがその巨大な円柱の中頃なのか下の方なのか上の方なのかすらもわからない。正面にはゴシックな手すりのついた大理石の階段が円柱の中央に伸びていて、中央には、そうだな、正三角形の一つながりの廊が三つ立体的に絡まった形の物体が浮かんでいる。三つの正三角形の輪はどこでもつながっていない、ただ知恵の輪のように絡まっていて、どこにも枝わかれはない。完全な輪の廊。今僕が立っている階段がその浮かんでる物体のどこかにつながっているみたいなのだが、どこにどのようにつながっているかは、僕のいる場所からは見えない。辺りを見回してみた。僕の入ってきたこの大きな扉と中央に伸びる階段。そしてその先にある浮かぶ幾何物体。それだけ。後は何もない。上をみても下を見ても何処にも扉はなく。またその物体から伸びる他の階段もない。 僕はとりあえずその階段を上り始めた。物体の手前まで行けば何かわかるかもしれない。足跡は気味悪く大きく反響し、不快な残響音が重なっていった。僕は十歩ほど登り止まってみた。足跡のこだまは鳴りやまない。まるで誰かが僕のかわりに歩き続けてるみたいだ。耳をすましてみると、最初に僕がここに入ってきた時の扉の音までまだ聞こえている。やれやれ。僕は頭を振ってまた歩き始めた。今度はもっと早く。 おかしい。曲がり角?僕は曲がり角に出くわしてから初めて辺りを見回した。もちろん今までだって用心深く辺りを見ていたわけだが、特に変わったことはなかったので意識に入ってこなかったんだ。今だって、目の前にはただただ階段が続いてるだけだったはずなのに、いつの間にか曲がり角に出くわしていた。僕はふり返った。20mほど先でまた道が曲がっている。おかしい、僕はまだ一つも角を曲がっていない。僕はもう、一つの正三角形の中にいた。一片20mほどの正三角形で、もう二つの正三角形が知恵の輪のように絡まっている。僕が来たはずの階段も扉も何処にもなくなっていた。ただ果てしなく伸びる円柱の中の奇妙な三つの三角形の一つに僕はたっていた。まいったな。これじゃあ出口どころか他の三角廊にうつることもできないじゃないか。 少し考えてから。僕は進んでいた方向に一周してみることにした。
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