|
2005/06/12(日)
星空と沈黙U 銀河の宙廊
|
|
|
僕は彼女を太陽の神殿に連れて行った。途端に彼女の体は透けるように光を吸収し始めた。彼女に取り込まれる光の一閃ずつが、生命の躍動感を持って踊っていた。彼女は光の炎に身を巻かれながら、微笑んでいた。
僕は右のこめかみに指を立て、白い翼をよんだ。彼女に取り込まれる光の量が幾分落ち着いた頃、辺りは雨の日のような白さになった。光は白く鈍色で、その透明な輝きはもはや彼女の体にとりこまれてしまっていた。彼女は透明な輪郭に縁取られ、眼の奥に刺さるような輝きを呈していた。白い翼は来た。僕は先にその上に腰掛け、眉をしかめながら彼女を見て言った。 『乗りなよ。』 彼女は笑いながら首をかしげた。 『一緒に行こう。この世界を眠らせに。』 僕はもう一度彼女に言う。 『行くんだ。夜を失った街を。朝を殺した鉄臭い都市を。僕と君で永遠の眠りで包み込もう。彼らは牧場の匂いの風の中ですやすや眠る。夢の世界は何よりも甘い。昨日来る朝を待ちながら、いつまでも、いつまでも眠るんだ。』
白い翼に二人で腰掛け太陽の神殿を離れる。『月の砂漠』を超え、『絶望の森』の上を飛ぶ。『無垢の海』と『邪知の大陸』との間、『二度目の海岸』に白い翼は降り立つ。僕は海に向けて右手を差し出し、そのまま人差し指と親指で海岸線を切り取る。目の前には眠った海が波もなく音もなく広がった。浮かび上がった魚たちの腹が星の光に照らされ、水平線の下にもう一つ星空ができあがった。僕らは二つの星空のあいだで、銀河の宙廊に立っていた。
|
|
|