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2005/06/10(金)
星空と沈黙T もっと光を
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僕には眠らせる力があった。右手をかざして相手の顔の前をなでる。すぐに何でも眠ってしまう。最初は池の睡蓮を眠らせて楽しんでた。三つ綺麗に並んで咲いている端の二人を眠らせて真ん中の女の子と話しをした。 『この世で一番怖い話を教えてあげるよ。水がない世界を想像してごらん。』 『この世で一番怖い話を教えてあげるよ。光がない世界を想像してごらん。』 僕は右手を彼女の前にかざしそっと振り下ろした。赤い花粉がスカートのすそから僅かにこぼれ落ちた。僕は人差し指を伸ばしてその粉を指にとりじっと眺めた。三つの睡蓮はうつむいて風に吹かれて涼しそうな音をたてた。
僕は星空の中に一人の少女を見つけた。クジラ座とツキノサバク座の間の赤い星が輝くあたりに。僕は右手を星空に向け、ゆっくりと彼女の目をなでた。彼女は僕の腕の中にゆっくりと落ちてきた。クジラ座の前足の星もいくつか眠って落ちてきてしまったみたいだ。僕は彼女が起きるまで沈黙の図書館で『涙と有刺鉄線』の本を読むことにした。
彼女は目を覚まして、黒く長い髪をふわりと後ろにかきながしてから、こういった。 『光がたりないわ…。もっと光を。』
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