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2004/05/23(日) 酒と 肴と ギターと ピアノ
2004/05/23(日) 15:19
    酒と 肴と ギターと ピアノ
  
 何の予感もなしに突然鳴った携帯の着信画面で

懐かしいミュージシャンが、あのころのまま笑った。 

 酒のお誘いだった。

 「いまねぇ〜 ○○さんのご両親と飲んでるんですよ、

 チョときませんかぁ〜?」

 元プロギタリストと、愛する息子の行き先を見守ろうとする御両親の三人が、

僕を呼んでくれた店は、小さな、地元とは思えないお洒落なバーだった。

 片隅に設けられたステージには、青い蛍光灯に照らされ

ピアノとギターがお行儀よく飾られていた。

 ご両親は 少し前に 愛する一人息子の為に大きな決断

をし、今はあえて息子との間に ある特定の距離を置いている。

 その決断には、何一つ間違いはないことはご両親も、

息子もわかっている。 

 ただ7年間、いや、もっとずうっと前から見てきた夢の形を、

はたから見ればほんの少し、変える事が、二人の日々に、

決して小さくはない風穴を開けたのは、事実だった。

 その風穴は、誰が悪いのでもなく、親子にとって

激痛を伴なって開いたものの、その必要性を当人たちは、

いまや充分知っているから、だいぶふさがり

燃え残るほんのわずかな痛みを、

ほんのちょっと ほんのちょっとだけもてあましてる。

ただそれだけ。といわんばかりに、お母さんは、いつもと変らぬ

優しく明るい口調で僕に世間話をしてくれた。

 それを 穏やかな気持ちで聞けた自分に、ホッとした。
 
 一方 元プロギタリストとは、言葉を使う代わりに、

ギターとピアノで会話をしてみた。

 仕事じゃないし、何となくかみ合いそうなところから無難に

入っては見たものの、やっぱりあのころのようにはかみ合わない。

 彼のギターは、「今、オレ 触られると痛いところばっかりだから

あんまり突っつかないでね。」 そういっていた。

 そうするうちに 一応 同じ音階 一応同じリズムに落ち着き、

無難なだけの 傷口をさける様な無難な音のやり取りを、ひとしきりした。

 それでも、久しぶりに 音で再会した喜びはあった。

 久しぶりに、酔っ払った僕には、それ以上鮮明に受け取るべき

メッセージも見当たらず、また探す気にもなれず、

ただ 声をかけてくれた人々に

作り物でない 質素な笑顔でうなずいて、

時を過ごしました。

 何も動かさなくていい、 何も掘り下げなくていい。

ただ そこにあるだけの、無理やり協和音にもって行かなくていい

ジャズの不協和音みたいな空気に、身をゆだねた夜でした。


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