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2005/03/17(木)
SS【ホワイト・デー】その3
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「焼き具合をそろそろ見てね」 四代目の声に、3人ともそれぞれのオーブンを確認する。 「あ、良い色」 「こっちも食べ頃だってばよ」 「まぁ、こんなもんだろ」 オーブンから取り出されたケーキはそれぞれ美味しそうな色と香りを漂わせていた。 「それじゃ、出来たケーキを箱に入れて包装して」 3人の後ろでやはり各々の出来を確認しながら、本日の担当忍である依頼人がにっこりと笑って次の指示を出す。 出来を堪能して喜んでいたのも束の間、すぐに現実という名の地獄へ突き落とされ、3人の肩はガクリと下がった。 「やっぱり…」 「そこまでするのか…」 げんなりと呟くナルトとサスケの横で、 「そりゃあね、このままじゃ渡せないものね」 サクラが仕方ないと肩を竦める。 「包装は私がやるから、サスケ君とナルトはケーキを箱に入れて」 ここからは流れ作業の方が良いだろうと、サクラは二人に指示を出す。包装という緻密な作業から救われた二人は、ホッと安堵の息を漏らすとサクラの指示通りに動きだした。 それから約30分後、箱に詰められ見事に包装されたケーキの山が築き上げられていた。 「壮観ねー」 サクラは自身の包装の出来を確認しながら、そのやり遂げた量に感嘆する。 皆に背を向けてサスケは何やら動いていたが、気付いていたのはただ一人だった。 「サスケ君、一体何をしてるのかな?」 柔らかな声が意味ありげに問いかける。しかし、サスケはそんな相手を一瞥しただけですぐに手元へ視線を戻した。 「アンタには関係ない」 素っ気ない声は、「さっさとあっちに行け」と言外に告げている。 「仮にも里長に向かって、その口の聞き方はないんじゃないの?」 もっともらしいことを言いながら、四代目はサスケの手元を覗き込んだ。しかし、その視線からすぐに目標物は妨げられ、 「覗き趣味でもあるんですか?」 今度は嫌味ったらしく丁寧な口調でもって、サスケは背後の四代目を睨み付けた。 「んーん。でもね、もしも、サスケ君がそこにあるチョコペンを使って『ウスラトンカチ、好きだ』なんて書いてたらどうしようかと思って」 穏やかな笑みの裏に底知れないものを感じ、サスケは身構える。 「……してるわけねーだろ」 返す言葉は剣呑で、里長を相手にしているとは思えないほど不遜だ。 「そ?」 顔を赤く染めながら睨み上げる表情は、それがとても真実だとは思えない。 「だったら良いんだけどね」 あけすけな牽制に、サスケは心の中で舌打ちをする。 (ったく、大人げねー…) 余裕のある表情で自分を見つめるこの目の前の里長が、実はどれだけ心が狭いかをサスケは身を持って知っている──だからといって、おとなしく言うことを聞くような性格でもなかったが。 そして、一方の大人げない大人もまた……。 (まったく、懲りないよね) 里中の女性の人気を一身に集める笑顔の下では、どう、この虫を退治したものかと考えを巡らせている。 可愛い可愛い、それこそ目の中に入れても全然痛くないような息子にちょっかいを出してくるこの害虫。 (人の息子が純真無垢なのを良いことに有ること無いこと吹き込んで…) 今までのことを思い出して、沸々と怒りが込み上げてくる──勿論、自分のことは棚上げだ。 (ああもうっ、ナル君が心配で仕事なんてしてられないよっ!) 心の中で勝手な叫びを上げた四代目は、ヒシッと無防備な息子の背中を抱き締めた。
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