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2005/02/08(火)
SS【バレンタイン・デー】その2
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バレンタインデー当日。ナルトはサクラに買ってもらったチョコを前に悩んでいた。 朝から渡すことも出来たが、今日は任務が休みでいつでも渡すことが出来る。やはりここは趣向を凝らした渡し方をするべきだろうと、ナルトは父親を仕事に送り出した後、ずっと考えていた。 「普通に渡してもつまんないし……そうだってばよ!」 思いついた名案にナルトはにんまりと笑うと、全身が映る鏡の前に立ち、印を組む。 「忍法お色気の術!」 ナルトのかけ声と共に吹き出した煙幕が消え去った後、そこには長い金髪の美少女が立っていた。 「今まで父ちゃんには試したこと無かったもんな。きっと驚くってばよ!」 鏡の前で少女に変化したナルトは満足そうに頷く。いつもは服を着ていない状態での変化だが、今日はチャイナ系のワンピースを身に纏っていた。身体にフィットするチャイナ服は体の線が出て、スタイルの良さが目に見えて解る。 「ボンッキュッボンッで、父ちゃんを悩殺だってばよ!」 ニシシと笑いながら鏡に向かってVサインをすると、ナルトはチョコレートを掴んで父親の仕事場へと向かっていった。
「っても、この姿じゃ執務室まで入れないの忘れてたってばよ……」 いつもであれば息子ということでフリーパスだが、その息子ということを内緒にしていくのだからすんなりと通して貰えるはずがない。向かう先は曲がりなりにも木ノ葉の里長である火影の執務室なのだから。 ガクリと項垂れながら、ナルトはどうにか外で父親と会えないものかと考える。 「ちょっとだけで良いから、父ちゃんが執務室から外に出てきてくれれば良いんだけどなぁ……」 「君、君、何か用?」 悩むナルトの頭上から聞き知った声が聞こえ来て、ナルトは勢い良く上を向いた。 「カカシ先生っ」 その人を認めてナルトは明るい顔を向ける。 「お前…ナルトか……」 普段は自分たちの上司であるカカシがそこには立っていた。 「こんな所でそんな格好して座り込んで、一体どーしたっての?」 何となく想像はついたが、とりあえずカカシはナルトに尋ねてみる。 「先生、悪いんだけど父ちゃんを外に呼びだしてってば?」 カカシはナルトの父親である四代目の弟子であり、ナルトたちとの任務が無い日はその秘書も務めている側近中の側近だ。ここでカカシと出逢えたのは幸運にナルトは嬉しさに目を輝かせると、早速父親を呼びだしてくれるよう頼み込む。 「えー? タダで頼まれるのはイヤだなぁ」 (大体、ナルトが来たってだけであの人は仕事にならないんだから) 親馬鹿の極地──カカシは尊敬する師のことをそう思っている。 限りなく有能なくせに、ただ一つの弱点の前ではとんと無能に陥るのだ。 ナルトが手にしているのは多分チョコレートだろう。しかも、呼び出してこれを渡そうとしているに違いない。 (サクラ辺りにでも入れ知恵されたのかねぇ……) 心の中で賢い弟子の一人を思い出す。普通だったら、男の子のナルトがチョコレートをあげるなんて発想を思い浮かべるわけないだろうから。 (こんなナルトにチョコレートなんて渡された日には、あの人、その場で仕事放棄しちゃうんじゃないの?) まず間違いなく、カカシの予想通りになることだろう。その手引きをするのは自分を含め、他の人々の首を絞めるも同然の行為で、タダで聞いてあげることは到底出来ない。 「タダじゃ聞いてくれないって……じゃあ、どうすれば聞いてくれるってば?」 可愛く唇を尖らせるナルトに、カカシは苦笑する。十分に男を惑わせる素質があるなぁ…なんて、しみじみと思いながら、ナルトにどんな条件を出そうかと考えていた。 「そうだねぇ……ナルトが先生にチョコレートくれるんだったら聞いてあげても良いかな?」 「へ? チョコ?」 思わぬ交換条件にナルトの目は丸くなる。 「そう。それもちゃんと今日中ね」 口布の下でにっこりと笑みを浮かべるカカシに、ナルトは困った表情を浮かべていた。
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