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2005/02/10(木)
SS【バレンタイン・デー】その4
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「四代目、ちょっと外に息抜きに行きませんか?」 先程まで書類を取りに行っていたカカシの突然の誘いに、四代目は怪訝な顔で元弟子を見上げた。 「何、カカシ君? 君がそんなこと言うなんて珍しいね」 秘書的立場にあるカカシの監視はどの側近よりも厳しい。そのことを指して尋ね返せば、 「あんまり根を詰めすぎても良くないでしょ。少しぐらい外の空気を吸った方が捗るかもしれませんよ」 らしくない台詞が笑みと共に返される。 「……何企んでるの?」 訝しみながら追求すると、カカシは心外だと肩を竦めてみせる。 「人聞きの悪いこと言わないで下さい。別に良いんですよ。このまま仕事がしたいって言うなら、俺としてはそちらの方が助かりますから」 「いや、そういうわけじゃないけど……」 正直、執務室でずっと書類と睨めっこを続けていた四代目はいいかげん飽きが来ていた。 「か、カカシ君がそう言ってくれるなら、息抜きして来ても良いかなぁ〜?」 一応、周りを横目で見渡しながら了承を得ようとする。 カカシの提案には周りの反応も四代目と同じ様なものだったが、カカシが言うことに否やを唱える者もいなかった。 「じゃ、少しだけ出てくるよ」 とりあえずの了解を得た四代目は安堵の笑みを浮かべると、席から立ち上がり、 「みんなも少し休んでて」 そう声を掛けるとカカシを従えて部屋から出て行った。 「そう言えば、今日はバレンタインデーだったね。カカシは貰った?」 朝から数え切れない程のチョコレートを貰った四代目はカカシにも尋ねてみる。 「ええ」 にっこり笑いながらカカシは先程貰ったばかりのチョコレートを取り出し、四代目に見せつけた。 「何? それだけ? カカシ君だったらもっといっぱい貰えたでしょ?」 里だけに及ばず近隣諸国からも『車輪眼のカカシ』として知れ渡っているカカシだ。たった一つと言うことはないだろう。 「四代目には敵いませんけどね。一応言っておきますが、これは本命からです」 口元に持ってきて笑みを浮かべるカカシに、四代目が驚きの声を上げた。 「ええっ!?」 「うっふっふ〜」 機嫌良く気持ちの悪い笑みを浮かべるカカシに、四代目の眉が寄せられる。 「だ…誰からとか訊いても良い?」 口元を引きつらせて尋ねれば、カカシは無言で首を振って拒否を示した。 「内緒です。でも、とても可愛い子だということだけは教えておいてあげますよ」 カカシの常にない上機嫌さに、四代目は悪い予感がしてたまらなくなる。 (ま…まさか、ナル君からとか言わないよね???) 不吉な考えに四代目の頭は段々と項垂れていった。 「火影様っ」 その時、木の陰から一つの影が四代目の前に飛び出す。 「へ?」 間の抜けた声を出しながら四代目が顔を上げると、そこには一人の少女が立っていた。 「あ、あの、コレ、受け取って下さいっ」 金髪の少女が差し出したのはチョコレートと思しき物。 「…………………………これを、オレに?」 長い沈黙の後、四代目は少女からチョコレートを受け取った。 「はい」 頬を染めながら、少女──ナルトはコクリと頷いた。 (おいおいおいおい…俺の時とは随分と態度が違うんじゃないの?) その様子を見ながら、カカシは心の中で激しく突っ込む。 (まぁ、こっちが本番なんだから当然と言えば当然かもしれないけどねぇ…) それでもやはり不服を申し立てたくなるような違いだった。 「ねぇ、カカシ君」 「……はい?」 振り返った四代目は柔らかな笑みを浮かべて自分を見つめていて、カカシはそれにイヤな予感を覚えながら応える。 「オレ、これからこの娘とデートしてくるから、あとお願いね」 そう、にっこりと笑ったかと思ったら、四代目はカカシの返事も待たず少女の身体を抱きかかえて姿を消したのだった。 「瞬身の術は便利で良いねぇ…」 予想していたこととはいえ実際に目前逃亡されたカカシは、二人がいなくなった場所を見つめ、頭を掻きながら呟く。 「やられた方にとっちゃ、とてつもなく厄介だけど……さて、他の皆さんにはどうやって説得したもんかな? やっぱり責任は俺になっちゃうのかねぇ?」 そう考えると軽く憂鬱な気分になって、カカシは深い溜息を吐き出した。 「ま、夜はしっかり働いてもらうってことで勘弁してもらいますか。それに、報酬も戴いたことだしね」 手の中のチョコレートに目を落とし、カカシは小さく笑みを浮かべる。可愛い弟子の喜ぶ顔が見られるかと思えば、少しぐらいの嫌なことも我慢する気になれた。 「さて、そろそろ戻りますか」 自分に言い聞かせると、カカシは何事もなかったかのようにその場を後にした。
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