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2005/10/13(木)
【キツネツキ】
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枯れ葉の舞う中、狐たちが小さな存在の周りに群がり始める。 「きちゅねしゃん」 囲まれた中から聞こえてきたのはあどけない子供の声。 金色のふわふわとした髪が、茶色の中に浮かんで見える。 数匹の狐に取り囲まれ、ナルトは何も知らず笑っていた。 じゃれつくように、守るように――大事な主を封じ込めたその器をいつか滅ぼそうと機を狙うように――彼らはナルトの周りへ集まってくる。 小さな子供の父親は、その光景をすぐ近くで見守っていた。 魔物ではない動物にそんな力はない。せめて噛み付くぐらいが関の山だろう。 だが、小さな子供は無力で、彼らの力でもその命を奪い取られる可能性はある。 (そんなことはさせないけどね) 優しい瞳でその光景を眺めながら、何が起こってもすぐに動けるように隙を見せることはない。 (ナルトに指一本、爪の先だって触れさせたりしないよ) その器としたのは自分だ。けれど、その存在を許したわけではない。 彼の大切な存在の何をも、侵すことは決して許さない。 (その子は君らの主ではないし、これから先、なることもない) ただの器なのだ。それ以上でも、それ以下でもない。 自分の為だけに在る愛しい存在。他の誰のものでもない。 「ひゃっ」 頬を舐められ、長い顔を擦り付けられたナルトから驚いた声が上がる。 大きく目を見開いていたナルトだったが、すぐにその顔を綻ばせると、小さな手を伸ばして狐の首に回した。 「きちゅねしゃんふわふわー」 キュッと抱きしめるその腕に、腕の中の狐の戸惑いが伝わってくる。 それを見て、彼の父親は口元に苦笑を浮かべた。 (彼は決してこんなことはしないだろうね) 無邪気で優しい、自慢の息子。その躯に封印された邪悪な魔獣。 無垢な子供の内で、いっそ浄化されてしまえば良い。 太陽のような我が子を想いながら、そんなことを考える。 (ナルトなら不可能を可能にしてくれそう…なんて、親馬鹿過ぎるかな?) それでも、こうして九尾を封印出来たように、この小さな存在には無限の可能性が秘められていてもおかしくはない。 (何しろ、里一番の忍がこの子の可愛らしさに全面降伏しているくらいだしね) 彼――木ノ葉の里、四代目火影はその口元に苦笑を浮かべた。 「ナルト、おいで」 「とーちゃ」 名前を呼ばれ、ナルトの顔が上がる。少しだけ名残惜しげな表情をしたナルトは、狐から手を離すと、父親の方へと駆けだした。 ポスンと父親の脚に抱きついたナルトは、元いた場所を振り返ると、 「きちゅねしゃん、ばいばいっ。またねっ」 小さな手の平を振って、狐たちに別れを告げる。 狐たちは、手の代わりに尻尾を揺らした。 「友達になったの?」 「うんっ」 問いかけに元気に頷くナルトに、彼は「良かったね」と笑みを返す。 (本当は、彼らは君のことを狙っていたんだよ?) 告げても解らないことだろう。 そして、微かに存在していた敵意さえも消し去った狐に、もうそんな言葉は必要もない。 「ナル君とキツネさんは仲良しさんだね」 「だってばよ」 ほんわりとナルトは笑って頷く。 幸せそうな笑みに、彼の父親も柔らかな笑みを口元に刻んだ。
大丈夫。 大丈夫。
この子なら平気。
暗闇の中でも、周りを明るく照らすことのできる存在に、絶対なってくれるから。
------------------------------------------------------ ちょっとブラックなパパ(生存ver.)。 そして、かなりの親馬鹿。独占欲丸出し。<いつものことです。
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